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犬の脱走をから守る 一級建築士が考える「脱走防止の家の工夫」

玄関は、人が必ず出入りし、宅配・来客・子どもの帰宅など、ドアが頻繁に開く場所です。
そのため、犬にとっては“偶然のすき間”がもっとも生まれやすいポイントでもあります。

そして一度飛び出してしまうと、車道・通行人・他の犬など、予測できない危険が一気に増えます。
「しつけをしているから大丈夫」という油断が、思わぬ事故につながってしまうことも珍しくありません。

実はこの“玄関からの飛び出し”は、しつけだけでは完全に防げない行動です。
だからこそ、住宅のつくり方・玄関まわりの計画次第で、脱走リスクを大きく減らすことができます。

家づくりは、生活の安全性までデザインできるもの。
この記事では、一級建築士としての視点から「玄関脱走を防ぐ家の工夫」を分かりやすく解説していきます。

 

1.犬が玄関から飛び出してしまう背景

自分は建築士ですが動物が苦手な事もあり、あくまで勉強し理解した内容をまとめています。

そのため心理・行動学に踏み込みすぎないよう、あくまで“最低限の理解”として読んでいただけると幸いです。

1-1.玄関は刺激的な場所

犬にとって玄関は、

  • 人が必ず戻ってくる
  • 外の匂いや音が集まる
  • 新しい刺激が多い

という“わくわくしやすいポイント”です。

犬はこうした刺激に対して本能的に動きやすいと言われています。

1-2.しつけだけに頼らない」住宅側の対策

もちろんしつけも大切ですが、玄関のように刺激が多い場所では、完璧にコントロールするのは難しいのが現実です。
住宅の構造や間取りで「飛び出しにくい環境」を用意してあげることが、最終的にはもっとも確実。

「しつけ×間取り」の両輪で対策することが、家庭での安全性を最も高めると考えています。

2.玄関まわりの脱走リスクを整理する

玄関からの飛び出しは「事故」というより、住宅の構造と生活動線が生み出すものになります。

まずは、どんな場面で脱走リスクが高くなるのかを整理しておきます。

2-1.玄関ドアが開くタイミング

玄関が開くタイミングは、家の中で最も予測しにくい瞬間です。

  • 家族が帰ってきたとき
  • 宅配便に応対するとき
  • 置き配の確認でドアを少しだけ開けたとき

こうした「一瞬のスキ」が、犬にとっては脱走のチャンスになってしまいます。
特に犬は、人がドアを開ける動作を“日常のルーティン”として覚えやすいため、タイミングが合うとサッと飛び出すことがあります。

2-2.小さな子どもがいる家庭のパターン

もうひとつ注意したいのが、小さな子どもがいるご家庭です。

  • 子どもが玄関の鍵を開けてしまう
  • お友達が来て走ってドアを開ける
  • 家族のルールを守らず、玄関ドアを開け閉めしてしまう

こうした“想定外の開閉”が増えることで、脱走リスクが一気に高まります。
実際、玄関の事故は「子ども×犬」の行動が重なった瞬間に起きるケースが多い印象です。

2-3.間取りでの注意点

最近の住宅は、玄関からリビングまで一直線につながる“省スペース動線”が増えています。
ただし、犬の脱走リスクという点では、

  • 廊下が短い
  • 視線が玄関まで抜けている
  • リビングのドアを開けたら玄関がすぐそこ

という間取りは犬が玄関へ行きやすく、注意が必要です。

動線が短いほど“飛び出しまでの距離がゼロ”になるため、間取りの段階でリスクを把握しておくことが大切です。

3.脱走しにくい玄関をつくる

玄関からの飛び出しは、間取りの工夫で大幅に減らすことができます。
ここでは、新築はもちろん、リフォームでも活用しやすい建築的な解決策を紹介します。

3-1.二重玄関(風除室・土間スペース)

もっとも確実な対策が、「二重玄関」です。

  • 玄関ドア
  • 内側の建具(引き戸・ゲート)

この二枚構えがあるだけで、“ドアが開く=外へ出られる”という構図が成立しません。
北海道や雪国では一般的な風除室ですが、犬の脱走防止としても非常に有効です。

また玄関土間を広めに取り、内側にもう一段階スペースをつくる方法も効果的です。

3-2.ペットゲートや引き戸を設ける

後付けの簡易ゲートも便利ですが、新築・リフォームで建具として組み込むほうがどうしても生活しやすさは上です。

  • 引き戸
  • ハイドア
  • 壁内引き込み戸
  • 木製の造作ゲート

これらを玄関ホールの奥に設置すれば、来客や帰宅時の開閉に左右されず、犬が玄関へ一直線に来るのを防げます。

インテリアにも馴染むため、生活感が出にくいのもメリットです。

3-3.土間収納・シューズクローク活用

実は「物の場所」と「動線の整理」は、脱走防止に直結します。

  • 散歩グッズ(リード・ハーネス)を土間にまとめる
  • 犬の待機スペースを玄関から離して設定する
  • 子どもの荷物置き場を玄関奥に集約する

こうした工夫で玄関前のごちゃつきを減らし、犬が玄関に寄り付きにくい環境をつくれます。

3-4.外が見えすぎない視線計画

犬は視覚刺激に反応しやすい動物です。
玄関ドアの外に人影が見えるだけで、興奮して走り出すことがあります。

  • 玄関ドアのガラス面の高さを調整
  • 型ガラス(くもりガラス)にする
  • ポーチの壁を少し立ち上げて視線を遮る

こうした“見え方のデザイン”も、犬の興奮を抑える効果があります。

住宅設計では「視線計画」と呼ばれる分野ですが、犬の住環境づくりでも非常に役立ちます。

 

3-5.宅配ボックスの活用

玄関ドア開ける回数を減らすことは、脱走を減らす事に直結します。

そのため宅配ボックスなどをうまく活用するのも一つ案です。

犬がお休みのタイミングなどで宅配便を受け取れば、宅配便を受け取る時に手がふさがるなどの問題もなく、脱走も防ぐことが容易にできます。

4.エクステリアで「家の外側」でもガード

玄関まわりの脱走防止は、家の中で全てが完結すればいいですが、間取りや住まい方によって家の中だけで完結できない場合も多々あります。
そのような場合外構工事(エクステリア)のつくり方で、脱走リスクを大きく下げることができます。
特に玄関から道路までの距離や“ワンクッション”の有無は、飛び出し事故の発生率に直結します。

4-1.門扉とフェンスを設置

最も効果が高いのが、玄関ポーチの外側に“二重のバリア”をつくることです。

見え方は異なりますが、先ほどの風除室と考え方は似ています。

ただしジャックラッセルテリアなどの跳躍力がある犬種の場合は、完全に囲まれた風除室の方が無難です。

 「玄関ドア→門扉→道路」

という“2段階”構造にすることで、仮に玄関から犬が飛び出しても、いきなり道路に出ることがなくなります。

門扉は小型犬でも通り抜けにくい高さ・隙間を選ぶことが重要です。

4-2.駐車スペースと玄関の距離

外構の中で見落とされやすいのが、駐車スペースと玄関の距離です。

  • 車から荷物を降ろす
  • チャイルドシートを外す
  • 雨の日の急ぎ足の出入り

こうした玄関ドアが長く開き、犬が飛び出しやすいタイミングでもあります。

もし駐車スペースが道路と直結している配置の場合、「車から玄関までをフェンスで囲う」という工夫があると安全性が格段に上がります。

外構計画では、「どこで人が立ち止まり、どこでドアを開けるか」をイメージしながら動線を分けることが重要です。

4-3.フェンスの高さや隙間

犬の脱走は飛び越えるだけでなく、くぐる(下を抜ける)ことや横から回り込むことも発生します。

フェンスを設置する際は、以下の3点が基本です。

  • 高さ:小型犬でも120cm以上、中型犬なら140〜160cmが安心
  • 隙間:10cm未満(子犬・小型犬の頭が入らない幅)
  • 地面とのすき間:5cm以下(掘り返し防止の配慮も)

特に地面とのすき間は見落としがちで、ちょっとした段差から簡単に外へ抜け出してしまいます。

特にフェンス下に基礎が連続して通っていない場合、土部分を掘ってしまい脱走することも可能です。

そのためフェンスを設置する場合は、布基礎を設置し、その上にフェンスを施工する方が確実です。

4-4.玄関ポーチの段差や階段

玄関ポーチの設計も、脱走防止に影響します。

  • ポーチ階段を道路と逆向きにつくる
  • 植栽や袖壁で“直線の逃げ道”をつくらない
  • 隅切りを入れて“回り込む動線”にする

こうした工夫で、犬が直進で道路に飛び出す可能性を大幅に下げられます。

外構は「景観」だけではなく、動き方(行動動線)をデザインする場所でもあります。

5.玄関以外の“飛び出しポイント”

ここまで玄関を中心に解説してきましたが、実際には
脱走リスクは玄関だけに限りません。

住宅のつくりによっては、以下の場所も“外と直接つながりやすい出口”になります。

5-1.勝手口(キッチン・パントリー横)

勝手口は、

  • ゴミ出し
  • 洗濯干し
  • 外物置との行き来

などで頻繁に使われるにもかかわらず、玄関より警戒が少ない分、犬が後ろからすっと抜けてしまうケースがあります。
段差が少なく、外へ“スルッ”と出られる構造の家も多いため、脱走の盲点になりがちです。

勝手口は 玄関より気が緩む場所=リスクが高い場所 と覚えておくと安心です。

5-2.掃き出し窓(LDK・和室)

掃き出し窓は“地面とほぼフラット”で外に出られるため、犬にとっては「外への最短ルート」です。

  • 洗濯物を干すためにサッと開けた瞬間
  • 夏場に網戸の状態でいたら破って飛び出してしまう
  • 子どもがベランダに出るときに窓を開けっ放しにする

こうした行動が重なることで、飛び出し事故につながります。

特に 網戸は犬が本気を出せば簡単に突破できる ため、脱走防止としてはほぼ機能しません。

5-3.その他の出入口(ウッドデッキ・庭との境界)

ウッドデッキや中庭のある家は、「窓 → デッキ → 庭 → 道路」という導線になっている場合が多く、脱走に繋がりやすいです。

  • デッキにあるステップ
  • フェンスの隙間
  • 地面とのわずかなすき間

こうした部分から犬が抜け出してしまう例も現場ではよく見かけます。

6.「暮らし方・ルール」の整え方

家側の対策をいくら整えても、日常の動作にムラがあると事故につながることがあります。
暮らし方とのセットで考えることで、家の性能がしっかり活きてきます。

6-1.帰宅時・来客時の「声かけ」

家族の合言葉を決めるだけで脱走リスクは減らせます。

  • 「今から開けるよ」
  • 「玄関チェックおねがい」
  • 「犬の位置OK?」

など、家族間で声かけを徹底しておくだけでも、誰かが不用意にドアを開けることを防げます。

玄関は外とつながる扉なので、開閉のルールは家庭全体で共有しておくことが重要です。

6-2.散歩の準備は玄関土間で完結

リード・ハーネスを探して右往左往している間に犬が玄関に寄ってきてしまう……というケースは多いもの。
散歩グッズは玄関土間の収納にまとめておき、「玄関で準備 → すぐ外へ」という流れを作ると、犬が勝手に玄関へ向かう習慣を減らすことができます。

当社のペット共棲住宅などでは、シューズクローゼットの中にそれらを歩きながら収納できる作りになっており、このような住まい方をすると便利といえそうです。

6-3.玄関から出す前のチェックリスト

飛び出し事故の多くは「確認不足」が原因です。
例えば下記のような“簡単なチェック”を玄関で習慣化すると安全性が高まります。

  • 首輪・ハーネスが正しく装着されているか
  • リードのナスカンがしっかり閉じているか
  • 玄関のゲートが閉まっているか
  • 子どもが先に玄関へ行っていないか
  • 外に刺激がないか(工事音・他の犬など)

毎日のことだからこそ、文章にしておくことが事故防止につながります。

6-4.しつけ教室やトレーナーの力を借りる

これを言うと身もふたもないですが、脱走対策はしつけだけに頼るべきでも、住宅だけに頼るべきでもありません。

  • 興奮しやすい性格
  • 呼び戻しが苦手
  • 玄関の音や外の刺激が怖い

こうした特徴がある場合は、住宅側の対策と並行して、プロのトレーナーのアドバイスを受けると安心です。
どちらか片方ではなく、「間取り×しつけ」の組み合わせにより、脱走の確率を格段に減らすことができます。

7.脱走防止・脱走後の備え

どれだけ対策しても、脱走を完全に防ぐことはできません。
だからこそ、もし飛び出してしまった時の備えを住宅側でも整えておくと安心です。
「備え」そのものも住宅性能の一部――そう考えると取り入れやすくなります。

7-1.リードフック・係留ポイントを設ける

玄関土間にリードフックや係留ポイントを設けておくと、「一時的に犬をつないでおける安全なスペース」が生まれます。

  • 来客対応のとき
  • 宅配の受け取りのとき
  • 子どもが靴を脱ぎ履きしているとき

こうした“作業中で両手がふさがるタイミング”でも、安全に犬を待たせることができます。

固定式のフックはもちろん、最近は造作家具に組み込んだタイプも人気です。

7-2.迷子札・マイクロチップ・監視カメラ

飛び出しに備える“住宅的な見守りシステム”として

  • 玄関ドアのスマートカメラ
  • 人感センサー照明
  • 玄関側の常夜灯
  • 門扉側のセンサーライト

を組み合わせると、玄関まわりで何か起きたときに気づきやすくなります。

あわせて、迷子札・マイクロチップは「最後の保険」です。
“飛び出さない”対策をしながらも、もしもの時に備えた二重の安心を持っておくことは非常に重要です。

特に玄関カメラは、

  • 外に犬が出ようとしていないか
  • 帰宅時間帯に子どもが不用意に開けていないか

といった“ヒヤリ場面”の可視化にも役立ちます。

子供は不用意に行動することを前提にしておくと無難です

7-3.ご近所への配慮と協力

犬の脱走は、家の敷地を超えた瞬間から「近隣の安全」にも関わる問題になります。
普段からご近所と良好な関係を築くうえでも、外構に少し工夫をしておくと安心です。

  • 街側に「犬がいます」などの注意喚起を控えめに掲示
  • 門扉の閉め忘れを防ぐ自動ロック
  • 道路から犬が直接見えない植栽配置

これらは“トラブルの芽”を減らすための設計でもあります。

いざという時、ご近所さんが「見かけたよ」「そっちへ走っていったよ」と協力してくれるのも、日頃の外構デザインやコミュニケーションが整っているからこそです。

8.まとめ

住宅の工夫と日々の習慣が合わさることで、玄関からの飛び出しは大きく減らせます。

今回記載した内容以外にも、寝床の充実や、インタホーンの音が聞こえにくくする工夫などもありますが、個体差があるため今回は割愛しています。

また実際にこのような対策を施した常設展示場も弊社事務所のすぐそばにありますので、実物をご覧になりたい方はぜひそちらも参考にしていただけたらと思います。

 

今回記載した内容が少しでも皆様のお役に立つのであれば、これ以上の喜びはありません。

最後までお読みいただきありがとうございました。

8-1.執筆者プロフィール

野島建設株式会社 代表取締役社長 野島比呂司

一級建築士 宅地建物取引士 増改築相談員

 

富山県出身 近畿大学理工学部建築学科卒

地元のハウスメーカーに就職後、2007年野島建設に入社。

会社の2代目として仕事をするだけでなく、自分でも会社を創業。野島建設として1000棟を超える施工実績があり、富山県の市町村単位では複数回の着工数1位の獲得経験あり。

2024年の能登の震災による仮設住宅建設にも尽力。その際に人と愛玩動物とのかかわりについて考え、ペット共棲住宅の重要性を実感。

 

投稿日 2025年11月29日

 

~温かい人が集まる暖かい家 NOJIMAのゼロ・ハウス~

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野島建設HP https://nojima-k.jp/

野島建設TEL 0765-24-6330

野島建設住所 937-0806 富山県魚津市友道390-1

 

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